夜界の王
口に運ばれるがままスープをたいらげると、男は皿を置き、もっと食べろと言わんばかりに小皿に料理を盛り始める。
正直スープだけでも十分お腹は満たされたが、再び口元に今度は白く煌くお粥を寄せられる。流れのままに口を開き、そしてまたそのお粥の美味しさに目を見張る。
匙を寄せられては口を開き、咀嚼し飲み込んだらまた匙がくる。
そんな感じでなんだかんだと一皿、二皿と食べ(させられ)ていき、アーシャは今までの人生で一番気持ちもお腹も満たされた食事を堪能したのだった。
「あ、あの、もう、大丈夫です」
満腹になってきたところで、下手をしたら完食するまでずっと匙を運んできそうである男を止めて言った。
「食べられるのならもっと食べておけ。回復しないぞ」
「その…ごめんなさい、もうお腹がいっぱいで…」
もともと食べるものが少なかった環境で生きていたこともあり、アーシャの胃袋はこの食卓に並べられたものの半分も平らげられる大きさはない。
消化に良さそうな料理を中心に小皿四皿ほどを完食したが、机にはまだこんもり料理が残っていた。
これを食べ切るのはとてもじゃないが無理だ。
しかしどれも絶品なだけに、残すのは申し訳ない。
残念そうな表情が顔に出ているアーシャに、男は持っていた皿を置く代わりに高々と皿に盛られた果物を取った。
「わかった。他はいらないなら食べなくていい。が…これは食べられるだろう?」
アーシャはコクリと頷いて赤い果実をかじった。
食事の締めのフルーツ。
まろやかな自然の甘さが口に広がり、思わず頰が緩んだ。