夜界の王



「…人間の娘は、皆このように痩せているものか?」

「そのようなことはありません。この娘は特殊です。…育った環境がよほど過酷なものだったのでしょう」


額に滲む汗を指の腹でぬぐってやると、少しだけ表情が和らいだ気がした。

起きているとき、肌に触れるとアーシャは決まって怯えた顔をした。温度のない手に触れられれば不気味に思うのは当たり前だろう。

だがああも毎度怯えを露わにされると、どことなく遺憾に思わなくもなかった。


もう一度額に触れる。

熱を持った身体にはダレンの冷たい手は心地良いらしい。

アーシャはダレンの手に縋るように顔をすり寄せてくる。


「…………」


そばに立ち沈黙しながらその様子を見守っていたアシュレーは、静かに主人に言った。


「その方には、“こちら側”のことは話したのですか」


ダレンは屈めていた上体を起こし、アーシャを見つめたまま答える。


「何も話していない。話すつもりもない。無駄に混乱させるだけだろう」

「左様ですな。しかし……まことにこの娘が回復するまで屋敷で面倒を見るおつもりですか?」


アシュレーの声音には諌める色が含まれており、ダレンは振り返った。


微動だにせず立っている老執事は、いつになくその顔に険しさを浮かべていた。



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