夜界の王



「そうだ」


ダレンが言うと、アシュレーは細い目をすがめ険しさを濃くした。


「恐れながら申し上げますと、ご主人様がその娘に何故ここまでなさるのか、私は甚だ疑問でございます」

「………」

「ダレン様。人であるこの娘を屋敷まで連れてきた行為、これは(れっき)とした掟破り(・・・)でございます。貴方様ともあろうお方が、知らぬままそれを侵したわけではございますまい」

「だとしたらなんだ」

「“議会”の者共に知れたら面倒になります。今すぐでもよろしい、この娘を元の世界へ帰しておやりになるべきです」


ベッドのそばで灯された明かりがジリッと点滅した。

部屋の床に落ちるダレンの黒い影が、ひとりでに揺らめく。

窓の外で、息を潜めていた鴉が一斉に飛び立った。無数の翼の羽ばたきがくぐもった音となり、静寂を嘲笑うように部屋に響いた。


「掟破りか…」


独りごちたダレンの声は、静けさの内側にマグマのような唸りがあった。


「人間を屋敷まで連れてきた行為が掟破りというなら、あの森で娘を見殺しにする行為もまた掟破りとなる。娘を食らわせ魔獣共に人間の味を覚えさせることと、一時的に保護し回復した後速やかに人間界に帰すこと、どちらが後の火種をうまぬ判断か。お前ならどちらを選ぶのだ?」

「…………」


アシュレーは押し黙った。


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