夜界の王
「俺は俺の役割を果たしているだけだ。 この世界を統治する者として、最善の選択をしたまで」
ダレンは再びアーシャに視線を落とす。
「長く置くわけではない…。1週間もすれば回復するのだろう。それまでは俺の屋敷で安全に保護する。議会の連中が感づくより前にこの娘は還せるだろう。娘を還すまで、屋敷の警護を強化させておけ」
ダレンが命ずると、アシュレーは深く礼をとった。
「…かしこまりました。しかしこの娘の姿は、すでに屋敷周辺の魔獣に目撃されております。人間の匂いは魔獣を惹きつけるため、凶暴化するものも出てくるでしょう。まずそちらを処理しておかなくては…」
「問題ない」
アーシャの様子は先ほどより落ち着いてきたようだ。
表情から苦痛が薄れ、年相応の無垢で健やかな寝顔に変わっている。
ダレンは彼女から目を逸らし、身を翻した。
「凶暴化した魔獣は、俺が殲滅する。お前は警備に専念しておけ」
アシュレーに命じ、ダレンは客室を出て自室への長い廊下を歩き出した。
彼の頭の中では、先ほど、眠る間際アーシャがこぼした言葉が幾度も反芻していた。
【…帰る場所なんて…もう、ないの……】
(だが、ここに置くこともできん)
人間を喰らう魔獣が生息し、かつ人間を嫌い目の敵にした厄介な魔人もいる。
ここ「魔界」は、
人間がいられる環境ではないのだ。
そしてダレンは、この闇の魔界を統率する“王者”であるのだ。