夜界の王
迷い込んだ人間は王が保護し、過度な干渉をせず速やかに人間界へ帰す。
古くから伝承された“魔界の掟”のひとつだ。
魔王といえど、掟を反故にすることは許されない。
「……………」
自分でも理解し難いもどかしさが、胸の内に渦巻く。
(あの娘は…何故声もなく泣くのだ)
まるで誰にも気づかせないように、感情を押し殺すようにひっそりと。
なぜそのような泣き方をするのか、ダレンにはわからなかった。
何がアーシャをあのように押しとどめるのか?
(あの時も、そうだった)
ダレンには数日前の出来事のように思えるが、脳裏に蘇る記憶の中の彼女は、今よりも少し幼い。
森の中のとある墓地で、俯いて立ち尽くす少女の姿ーーー……。
「…………」
考えたところで、自分のすべき役割が変わるわけではない。
少しでも彼女の体力を回復させ、無事元いた世界に還してやる。
それ以外に、自分がすべきことも、できうることも無いのだから。