夜界の王


ティーセットを食い入るように見つめているアーシャをみとめると、ダレンは一瞬怪訝そうに眉を寄せた。


「起きたか」

「あ、お、おはようございます」


慌ててティーカップから身を引いた。


ダレンはそばへやってくると、慣れた手つきで紅茶をカップに注ぎだす。

アーシャはついじっくりとその動作を見つめてしまう。

彼の指先の動作ひとつひとつ、見惚れてしまうほど滑らかで洗練されている。

アーシャは気づかれないように目線だけを上げてダレンを盗み見る。


(この人のこと、まだ何もわからないけど…きっと身分の高い人なのよね…)


神秘的で、謎が多い。だから余計に惹きつけられる。


湯気がたったカップがアーシャに寄せられた。


「ありがとうございます…」


アーシャは緊張しながらカップを受け取った。手汗で滑り落とさないように指に力を入れた。

ダレンに見られていることを意識して、落ち着かない気持ちで紅茶をすする。


(! 美味しい…!)


甘くてとろとろした舌触り。白湯以外に色と味のついた飲み物を飲んだのは久々で、アーシャは感動で頰が緩むのが抑えられない。

一口飲んで、また頰が緩む。

ダレンは、そんなアーシャの一喜一憂を興味深く眺めた。


「うまいか?」


アーシャは顔を輝かせたまま大きく頷いた。

つい素で反応してしまう。


「あ、えっと、美味しいです、とても…」


恥ずかしくなって言い直す。

飲み切ってしまったカップをダレンに返すが、彼の顔が見られなかった。





< 54 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop