夜界の王
ティーセットを食い入るように見つめているアーシャをみとめると、ダレンは一瞬怪訝そうに眉を寄せた。
「起きたか」
「あ、お、おはようございます」
慌ててティーカップから身を引いた。
ダレンはそばへやってくると、慣れた手つきで紅茶をカップに注ぎだす。
アーシャはついじっくりとその動作を見つめてしまう。
彼の指先の動作ひとつひとつ、見惚れてしまうほど滑らかで洗練されている。
アーシャは気づかれないように目線だけを上げてダレンを盗み見る。
(この人のこと、まだ何もわからないけど…きっと身分の高い人なのよね…)
神秘的で、謎が多い。だから余計に惹きつけられる。
湯気がたったカップがアーシャに寄せられた。
「ありがとうございます…」
アーシャは緊張しながらカップを受け取った。手汗で滑り落とさないように指に力を入れた。
ダレンに見られていることを意識して、落ち着かない気持ちで紅茶をすする。
(! 美味しい…!)
甘くてとろとろした舌触り。白湯以外に色と味のついた飲み物を飲んだのは久々で、アーシャは感動で頰が緩むのが抑えられない。
一口飲んで、また頰が緩む。
ダレンは、そんなアーシャの一喜一憂を興味深く眺めた。
「うまいか?」
アーシャは顔を輝かせたまま大きく頷いた。
つい素で反応してしまう。
「あ、えっと、美味しいです、とても…」
恥ずかしくなって言い直す。
飲み切ってしまったカップをダレンに返すが、彼の顔が見られなかった。