夜界の王




「気分はどうだ。どこか痛むか?」


ダレンはそばの椅子に腰かけながら言った。

アーシャは首を振る。


「昨日よりは、だいぶいいです。まだ少しだるさはあるけど…」


言いながら、アーシャはようやく昨日までの出来事を思い出してきた。


(…夢じゃないのよね)


昨夜、デリックとグレンダの陰謀を知り、村を飛び出し森で行き倒れた。

ここにいる謎の人物、ダレンが自分を拾い助けてくれたおかげで、なんとか生き延びることができたが…。


(これから、どうすればいいんだろう)


考えようとすると頭がぼうっとして、思考が働かなくなってしまう。


ダレンは、回復するまで一時的に保護してくれると言っていた。

もし本当に回復するまでここに置いてくれて、無傷で帰してくれるのだとして、その後はどうすればいいのか、アーシャには思い浮かぶ道がなにもなかった。


(もう村には帰れない。…帰りたくない)


村へ帰って再びあの二人と同じ場所で生きるくらいなら、死んだ方がマシだ。


(どこか離れた遠い町に…。でも行き方がわからないし、知らない町で一人で生きていけるかもわからない)


アーシャは手元の布団をぎゅっと握りしめる。

頼れるものが何もない。改めて独りっきりとなってしまったことを思い知る。

先の見えない絶望感、そして孤独感が、アーシャの心をみるみるうちに覆っていった。


< 55 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop