夜界の王
「気分はどうだ。どこか痛むか?」
ダレンはそばの椅子に腰かけながら言った。
アーシャは首を振る。
「昨日よりは、だいぶいいです。まだ少しだるさはあるけど…」
言いながら、アーシャはようやく昨日までの出来事を思い出してきた。
(…夢じゃないのよね)
昨夜、デリックとグレンダの陰謀を知り、村を飛び出し森で行き倒れた。
ここにいる謎の人物、ダレンが自分を拾い助けてくれたおかげで、なんとか生き延びることができたが…。
(これから、どうすればいいんだろう)
考えようとすると頭がぼうっとして、思考が働かなくなってしまう。
ダレンは、回復するまで一時的に保護してくれると言っていた。
もし本当に回復するまでここに置いてくれて、無傷で帰してくれるのだとして、その後はどうすればいいのか、アーシャには思い浮かぶ道がなにもなかった。
(もう村には帰れない。…帰りたくない)
村へ帰って再びあの二人と同じ場所で生きるくらいなら、死んだ方がマシだ。
(どこか離れた遠い町に…。でも行き方がわからないし、知らない町で一人で生きていけるかもわからない)
アーシャは手元の布団をぎゅっと握りしめる。
頼れるものが何もない。改めて独りっきりとなってしまったことを思い知る。
先の見えない絶望感、そして孤独感が、アーシャの心をみるみるうちに覆っていった。