夜界の王
「アーシャ」
ふいに名を呼ばれ、はっと顔を上げた。
ダレンは相変わらず感情の読めない顔でこちらを見ていた。
落ち込んだ思考の渦から、その声によって意識が現実に引き戻される。
強張っていた肩の力が抜けていくのを感じた。
「朝食ができている。食欲はあるか?」
「あ…、少しだけ」
おもむろに頷くと、ダレンは腰を上げた。
布団をめくり、昨夜同様当たり前のようにアーシャをベッドから抱き上げる。
「わ…っ!」
バランスが崩れそうになって、思わずダレンの肩にしがみつく。
「あ、あの、もう一人で…」
「無駄に動くべきではない。大人しくしておけ」
ダレンは降ろす気はないようで、さっさと歩き始めてしまう。
(昨日も思ったけれど、なんだか過保護にされすぎてるような…)
されっぱなしの状態は慣れなくて、胸の奥がむず痒くなる。
アーシャは落ちないようにダレンの胸元の服を軽く握った。
ダレンの視線がちらとそれを見る。
何も言わなかったが、アーシャを抱える手はまるで戸惑ったように僅かに動いた。