夜界の王
昨日と同じく、ふかふかの長椅子に降ろされ、隣にダレンが座った。
今朝の食卓も昨日ほどではないにしろ、アーシャにとっては大量のご馳走が広がっている。
こんがりと表面が色づいたブレッド。僅かな振動でもぷるぷると揺れ、宝石みたいに黄身が光ったフライドエッグ。大皿に盛られた瑞々しく色合い豊かな葉野菜のサラダ。
(まるで王様の食卓だわ…)
贅沢の度合いを知らないアーシャは、この屋敷では質素な方である今朝の食卓に感嘆の声を漏らす。
朝食に釘付けになっていると、横から例の老執事が何かを差し出してきた。
「こちらを、朝食を召し上がる前にお飲みください」
執事アシュレーが差し出したナプキンの中には、豆ほどの小ささの粒がひとつあった。
「これは…」
「錠剤でございます。あなたはよく栄養をとらなければなりませんから、体が食べ物を受けつけやすくするために必要な薬です。食後の後にも飲んでいただく薬がございますが、ひとまずこちらを」
村で薬を作っていたアーシャは、興味深くその粒を見つめた。
薬草をすりつぶして水に溶かしたり粉末状にして飲むのが村では普通だったが、こうして粒になった薬は初めて見るのだ。
飲むよりも観察ばかりしていると、アシュレーが自分が薬を飲むのを待っていることに気づく。
「い、いただきます」
グラスを受け取って、水と一緒に流し込む。
飲みやすい。苦さも感じない。喉に詰まらないか少しだけ怖かったけれど。