夜界の王
かなり奮闘したつもりだが、またしても全てを食べきることはできなかった。それでも半分ほどは胃に収まり、アーシャはようやく朝食を終えた。
アーシャはローブのままだった服装を、ダレンの指示で用意された服に着替えた。
薄紫色の、落ち着いた色合いのワンピースだった。
あり合わせの布で作ったごわごわなものではなく、高級そうな肌触りの良い生地。なんの素材なのかもわからない。
襟元と裾にレースが施してある以外はとくに装飾はなく、至ってシンプルなワンピースだ。
栗色のアーシャの髪と、ワンピースの色合いは良くあっている。
鏡で確認すると、痩せこけた顔つきに上品なワンピースは噛み合っていないように見えたが、それでもアーシャの乙女心は弾んだ。
広い廊下の壁には大きな絵画やタペストリーがかけられている。アーシャはそれらを興味深く目で追いながら、ダレンの後をついていく。迷路かと思われる廊下を、彼は迷う様子もなく進んでいった。
たどり着いた扉は、さきほどいた客室の扉とほとんど同じで、アーシャは一瞬同じ部屋に戻ってきたのかと錯覚した。
ダレンに続いて中へ入るなり、アーシャは思わず感嘆の声をあげて立ち尽くした。