そして、恋がはじまる
やっとのことでチャイムが鳴って、授業が始まった。


古典の授業。

最初に、百人一首の小テストが行われた。


ーーーそれが、よくなかった。

今日の範囲は、第十番から第二十番まで。


『ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは』


この和歌を先生が読み上げた瞬間。


「おい、聞いたか!? 『神』だってよ、『神』!!」


お調子者の大石くんが、にやにやしながら今井くんを振り返った。

今井くんはぱっと顔を背け、素知らぬ顔をする。

先生が「なんなの、大石くん」と怪訝な顔をしていた。


すると服部くんが挙手をして、

「せんせー、この竜田川って、『山』から流れて来るんですよね?」

と言ったので、みんながくすくすと笑い出す。


あたしは机の上の国語便覧に目を落としたまま、それに熱中しているような振りをした。


「そうよ、竜田川は生駒山から………」

「わっ、やっぱり『山』なんだ! 『神』と『山』だってよー!」


大石くんがまた、今井くんを振り返りながらにやにやと笑った。


みんなも、ちらちらと今井くん、そしてあたしを見ている。


ーーーあぁ、もう、最悪。

ほんと、顔、あつい。

まじで、やだ………。

穴があったら入りたい、ってことわざの意味、今日ほど実感したことはない。

てゆーかもう、逃げたい………。


あたしはほとんど泣きそうな気分で、シャーペンをぎゅっと握りしめ、顔を伏せた。


そのとき。


「………うるさいぞ、大石! 授業の邪魔すんなよな」


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