秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
ギュンターは手を王宮のほうへと向ける。
「公爵様は公務で王宮にいらっしゃる。それならばここから目と鼻の先だ。数人いた男たちの一人が指示を仰ぎに行ったとしましょう。男からその報告を受けた公爵は、とっさに考えたのではないですか? 穏便に済ますには、事が動きすぎている。こうなれば誰かを犯人に仕立てて、口を封じたほうが早い。そこで白羽の矢が立ったのがコルネリア嬢です。公爵様はもともと、ベレ家とあまり仲が良くないようだ。エリーゼ嬢と仲たがいしてくれれば、目障りだったベレ伯爵令嬢を遠ざけることができる……そう思ったのではないですか?」
公爵はギュンターをにらみつけたままだ。
ギュンターは無表情のまま先を続けた。
「公爵は、気絶したエリーゼ嬢のドレスから宝石袋を取り出し、自らが乗ってきた馬車の御者に渡した。そしてエリーゼたちが乗ってきた馬車に落ちていたと言えと伝えさせた。その間に、エントランスでクラウスを探してわめきたてた。タイミング的にはピッタリではないですかね」
クラウスがちらりと公爵を見る。
「最初は単純にコルネリアを犯人に仕立て、自分の手のものに、何食わぬ顔でエリーゼを見つけさせたことにすればいいと思っていた。しかし、屋敷には私がいた。光栄なお話ですが、公爵は私をエリーゼ嬢の夫にと望んでくださっている。それで、言ったんです。『エリーゼ嬢を救い出したものに、結婚の権利を与えてください』と。こうなると“私がエリーゼ嬢を見つけなければならない”というひと手間が生じる。公爵は指示の変更を伝えるために伝令を出さねばならない。しかし、今は門番も厳しく出入りを見張っている。それで、蹴られた門番を医者に見せるという口実を設けたのだ」
あの間、出入りのあった馬車はそれだけだ。