秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「ご所望の肖像画と書状、ベルンシュタイン伯爵からの返事を持ってまいりました!」
「ああ、ごくろうさま。ルッツ」
息を切らせて汗だくのルッツの手から封筒を受け取ると、伯爵家の印が押された封ろうを皆に見せてから、中身を検める。
そして、満足そうに頷いた。
「ベレ伯爵は新興伯爵家ではありますが、誠実さにかけては確かなようですよ?」
「なにっ?」
「私への縁談の申し込みにきちんと書いてあります。コルネリアは前妻との子で、アーレンス侯爵家の流れを汲んでいると。娘可愛さに引き取ったが、幸せにはしてやれなかったかもしれない。せめて結婚くらいは良縁を見つけてやりたい。……そう書かれております」
「嘘……お父様が?」
呆けた声を出すコルネリアと同時に、クラウスが顎に手を当ててつぶやいた。
「ああ、じゃあ俺とコルネリア嬢はまたいとこということかい? アーレンス侯爵家は叔母上の実家ですもんね」
「そう。だからコルネリアは嘘などついていないんだ。エリーゼ嬢とコルネリアが従姉妹同士で、幼少期から仲が良かったのは本当の話だ。するとなぜ、公爵はそんなにコルネリアを嫌うのか、というところが疑問になる。気になって、父に公爵とベレ伯爵の間に変な噂はないか聞いてみたんだよ」
バルテル公爵はぎょっとしたように目をむいた。
「この国で貿易港を持っているのはベレ伯爵だけだ。しかし彼は積み荷には厳しいチェックを加えることで有名らしい。公爵家は何度か断られていて憤慨している……らしいですね。父は社交的でして、人のうわさ話など結構耳に入ってくるのですよ。まさかこういう風に役に立つとは思いませんでしたが」
「あれは、……そのっ」
「公爵がベレ伯爵に対してどう思われても、私には関係ありません。しかし、コルネリアにこんな怪我をさせたことだけは許せない。立場が下の小僧と言われてもこれだけは譲れません。――謝罪してください」