秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「やれやれ……」
頭をかきながらコルネリアに向きなおろうとすると、事態を呑み込めていない従者は、純粋なる尊敬の視線をギュンターに向けてくる。
「さすがですね! ギュンター様」
まるで、尻尾を振る犬のようだ。
そこがルッツの好感の持てるところでもあり、クラウスからバカにされる所以でもあるだろう。
「……ルッツ」
「はい!」
「ご苦労だったな。夜の早駆けは大変だったろう」
「はい! そりゃあもう。今日は月が出てますから街道はそこそこ明るくなってますが、やはり視界が悪いですしね。馬もおびえるし。しかも、旦那様に『こんな夜になんだ!』と怒られたんですよー」
「ああ、それは悪かったな。お前も疲れただろう。部屋を頼んで休むといい。俺に割り当てられている部屋で休んでいいよ」
「えっ、でも」
一瞬キョトンとしたルッツは、ギュンターがコルネリアに視線を向けるのを見てようやく意図を察知する。
「え……あ、はい! お邪魔ですね! 僕」
「そういうことだ。思いついたまま話す癖も何とかしたほうがいいよ、ルッツ」
優しい主人にしては冷たい視線が帰ってくる。背筋が凍るような気がして、ルッツは早々に逃げ出した。
「失礼しますっ」
バタン、と戸が閉まる音と同時に、二人きりになったのを察知してか、コルネリアが身を固くした。