秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「父上もそう思いませんか? わが領土の財産源は鉱山。しかし、鉱山資源を掘り起こすだけの事業ではいずれ枯渇します。その前に、他の事業の道筋をつけなければならない。他国の文化を取りいれ、加工業を伸ばす意味でも、ベレ家とのつながりは重要です」
「おお、……まあ、そうだな」
「あなた!」
「母上、国内にだけ目を向けていては発展しませんよ。投資の意味を込めて、俺の決断を応援してはもらえませんか」
真っ赤にいきり立つ夫人に、しれっとした顔でギュンターが礼をする。
伯爵は、笑いながら妻の肩に手をのせた。
「どうやら何を言っても無駄のようだ。ギュンターは普段黙っていることが多いが、我の強さは天下一品だろう。君に似たんだ、仕方ない。それにそう悪い提案でもないさ」
いつか、母に対して思ったことが自分に当てはまることにギュンターは憮然としたが、父が味方になってくれそうだったので黙っていた。他の縁談への断りの連絡は、社交的な父がうまくやってくれることだろう。平和主義者は素晴らしい。
「では縁談の話はこれで終わりです。ベレ家への婚姻の申し込みは俺が書きますので、父上、後程署名をいただきたい」
「ああ、わかったわかった」
「ちょっと、ギュンター!」
これからしばらく、父は母をなだめるのに時間を費やすだろう。
ギュンターは二階に上がり、自室に向かう前に妹の部屋をノックした。