秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「お帰りなさいませ、ギュンター様」
出迎えるのは従者のトマス。奥では、エミーリアが今日もベッドカバーの刺繍と戦っていた。
「ああ、そうか。ベッドカバーか……」
結婚時に持参するしきたりになっている手刺繍のベッドカバーだ。
これは嫁入りする当人が自力で作ることによって、裁縫の腕前を披露し、それでも私を受け入れますか?との意思表示となる。このベッドカバーをつけた寝台で一晩ともに過ごすことにより、事実上の結婚が認められるといってもいい。
すっかり失念していたが、これは一朝一夕でできるものではない。最短で一か月、最長では……考えたくもない。
実際、裁縫の苦手なエミーリアは、相手が決まる前からこうして作らされている。
コルネリアは刺繍は得意だろうか。
結婚するまで待ちますなどと紳士的なことを言ってはみたが、この妹のように年単位かかって作るとなれば待ってなどいられないのだが。
「お兄様? お帰りなさい。どうしたの? ぼうっとして」
無邪気な微笑みを向けるエミーリアの目元にキスをする。
「もしお前が結婚したいと思う人が現れたら、相手がどんな立場であれ、俺が味方になってやろう」
「……? どうしたの急に」
「エミーリア、恋はいいものだよ。人生を豊かにする。俺は結婚相手を見つけたんだ」
「……なんかよくわからないけど、お兄様は幸せそうね。どんな方?」
「そうだな、白薔薇のような人だ」
「白薔薇……?」
いまいちピンと来ていない様子の妹を残して、ギュンターは部屋に戻り、上着を脱いだ。
そしてコルネリアへの手紙を書く。