秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
仮面舞踏会の時、自分は身分を忘れ名もなき男として、誰とも知らぬあなたに恋をしたのだと。
そんな相手との縁談が実際に持ち上がっていたのは、まさに運命だったと。
そのほか、歯の浮くようなセリフを並べ立ててみたが、納得がいかずくしゃくしゃに丸めて捨てた。
回りくどい愛の言葉は、顔を見てこそ伝わるものだ。
離れているときは、もっと単純で、本質を突いた言葉こそが心に響くはずだ。
【昼間別れたばかりだというのに、もうあなたに会いたい】
加えて、ベレ伯爵あてに挨拶に伺いたい旨を書いた手紙をしたためた。あとは父親からの一筆と署名をもらえば完成だ。
「うん。これでいい。父上、申し訳ありませんが署名を。あ……ルッツ! 一休憩したら伝令を頼めないか?」
部屋を出て、まだ言い合いをしている両親のわきで、荷物の片づけをしているルッツにそういうと、ぎょっとしたような顔で見上げられた。
「えっ! 今帰ってきたばかりじゃないですか!」
「しかし、馬を駆らせればお前が一番早いからな。……とにかくすぐひと眠りしろ。出発は目覚めてからでいい」
「……ギュンター。あまりルッツに無理をさせるものではないぞ」
ベルンシュタイン伯爵が、呆れたようにぼそりと言った。
コルネリアが、白薔薇の刺繍のベッドカバーを携えてベルンシュタイン家に嫁入りするのは、それから三ヶ月後のことである。
【Fin.】