秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
そこからさらに街道を進むこと三時間、港を有するベレ領へと入ると、遠くに大型のガレオン船の穂先が見える。
海沿いにある村は、陸路よりも海路での交易が盛んだ。
もともと、この辺りは特に古くからの貴族が住んでいるわけではなく、小さな村が船で物資をやり取りしながら細々と暮らしていた地域だった。そこへ、一介の商人だったコルネリアの祖父が小型のカラベル船を導入し、町の規模を広げていった。
それをさらに発展させたのがコルネリアの父だ。
他国と大量の物資をやり取りするにはやはり大型船が不可欠ということで、いち早く大型船の造船に力を入れ、貿易港として港を整備し、辺境地の小さな町だったこの場所をドルテア国への玄関口と言わしめるまでに成長させた。
その功績を評価され、コルネリアの父は国王より伯爵位と周辺の土地を授与されたのだ。当時二十八歳だったというから、相当のやり手だったのだろう。
コルネリアの母と結婚したのはその一年後だ。
港町の人々は、良く日に焼け、活動的だ。
そろそろ朝市が終わろうかという時間なので、値切りを伝える声が高らかと響いてくる。往来は人は商人の馬車が行きかい、コルネリアの乗っている箱馬車は大きすぎて身動きが取れない。
「お嬢様、遠回りしても構いませんか」
「ええ。皆さんの邪魔にならないように」
御者の問いかけに、コルネリアは穏やかに返事をした。