秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~

結局、市場を通り抜けるのは諦め、海沿いの道を迂回することにした。

海風が運ぶ空気には、潮の匂いが混じっていた。この空気に触れていると肌がヒリヒリする感覚があり、コルネリアはむき出しになっている両腕を押さえる。

母と父が別れたのは、性格の不一致もそうだが、領土になじめなかったことが原因ともいわれている。

内陸のアーベンス侯爵領で家にこもって暮らしていたような母には、この開放的な港の空気は心理的にも体質的にも合わなかったのだろう。

内心を言えば、コルネリアもそうだ。
日差しの下で走り回るよりは、部屋で裁縫しているほうが得意だし、海沿いの日差しや潮風にもすぐに肌が負けてしまう。父似の弟妹のように、陽の下でのびのびと笑い、町に降りて領民との会話を楽しむような生活はできなかった。


海の音を聞きながら、コルネリアは胸に刺した白薔薇をそっと見た。
生花は劣化が早い、一晩おいたことで花弁の端はもう変色していた。
色あせた花を見ていると、やはりあの晩の出来事は夢だったような気がしてくる。

なにせ、引く手あまたの伯爵子息・ギュンターから求婚までされたのだ。
地味でおとなしく、いつも壁の花である自分がだ。

自分でも到底信じられないし、きっと家族の反応も同じだろう。

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