秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~

馬車は高台へ向かっている。ベレ家の屋敷は、港町が一望できる高台の上に立っているのだ。


「お嬢様、着きましたよ」

「ええ。ありがとう」


御者に手を引かれ馬車から降り屋敷に入ろうとしたとき、コルネリアは丘を登ってくる馬を見つけて目を見張った。

従者服にマントを羽織った青年をのせた馬は、見る見るうちに丘を駆け上り、コルネリアから数メートルの距離でぴたりと止まる。
コルネリアはその青年の顔を確認し、あっけにとられた。


「あなた、……ギュンター様の」

「はあ、はあ、これはコルネリア様。ご機嫌麗しゅう」


青年は息を切らしたまま、にっこり笑ってお辞儀をする。


「どうなさったの。ギュンター様と自領にお帰りになったのではなかったのですか」

「帰ったんですが、手紙を預かりまして。……朝一で出てまいりました。はあ、疲れました。こんなに短期間にいろんな場所を行ったり来たりするのは初めてですとも」


ははは、と笑いながら馬を降りる。
少年のあどけなさを残す顔、柔らかなくせ毛を遊ばせたその人物は、ギュンター=ベルンシュタインの従者であるルッツだ。


「と、とにかくお入りになって。お疲れでしょう」

「わあ、コルネリア様優しいなぁ。できればお茶を一杯いただきたいです。ギュンター様ったら休憩は許さないなどというものですから」

「お待ちください。すぐに準備させます」


コルネリアは屋敷に入ると、すぐさま使用人たちに部屋とお茶の準備をさせた。
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