秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「では、その平和を満喫していてください」
椅子を引いて立ち上がったギュンターに、伯爵は非難の声を上げた。
「どこへ行く。ギュンター。お前の縁談話なんだぞ」
テーブルの上にのせられているたくさんの肖像画は、現在十九歳であるギュンターへの縁談の申し込みである。
なにしろ、広大な領地と鉱山資源を豊富に有するベルンシュタイン地方伯の跡取り息子だ。社交的な父のおかげか、幼少期より王宮への出入りもあり、ギュンター自身の評判もすこぶるいい。
年頃の令嬢を持つ国内の有力貴族たちがこぞって縁談話を持ってくるのも当然のことであった。
しかし、こう多くては、令嬢の顔と名前さえ一致しない。
「どうせ政略結婚です。誰としても一緒ですよ。ベルンシュタイン家にとってより良い相手を父上と母上でお決めください。決定には従います」
「おい、ギュンター」
「エミーリアのところへ行ってきます」
ギュンターが部屋の扉を開けると、ちょうど母親が入ろうとしていたところだった。
「あら、ギュンター」
「母上、あまりエミーリアをいじめないでくださいよ」
「私は教育をしているだけです」
ツン、と澄まして部屋の中へ入っていく母親を見送り、ギュンターは静かに部屋から出た。
廊下には彼の従者であるルッツが控えていて、ギュンターが歩き出すと静かに後をついてきた。