秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「今回、近隣の男爵、子爵家からも独身の男を多く呼んでいる。女性は、お前のもとに縁談を求めてくるような家柄の方を選んで招待状を出している。今回は内密の仮面舞踏会ということでエスコートはなしで男性同士、女性同士で来るよう伝えてあるからな。ギュンター、お前は俺と一緒に行くんだ」
「主催者である君も正体を明かさないのか?」
「もちろん。進行はそうだな。ルッツ君に頼もうか」
「は? えっ無理ですよ、そんなの」
いきなり大役を仰せつかって、ルッツは顔の前で両手を振りまくった。
「進行原稿は用意してあるよ。君もたまにはこの堅物から離れてみたまえ」
「まるで私がルッツをいじめているような言い方だな」
「逆だ。君は従者を守りすぎだよ。主君に守られる従者などいずれ使い捨てられるぞ」
クラウスに言われて、ルッツは青くなって身をすくめた。
「クラウス、私の従者を脅かさないでいただきたい」
「はいはい、ホント優等生だな、ギュンターは。たまには羽目を外せと言っているんだ。今宵、この仮面をつければ、君はギュンター=ベルンシュタインじゃない。ただの名もなき男だ」
仮面の鼻のあたりに指をあて、洗脳でもするようにクラウスはギュンターを見つめた。
「伯爵家の意向や、君をやっかむ子爵たちのことなど考える必要はないよ」
「……はいはい」
どうやら、仮面舞踏会を催してくれたのは、クラウスにとってはギュンターの気を軽くするための気遣いでもあったらしい。