秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
確かに、とギュンターはひとりごちる。
ベルンシュタイン家の跡取りとして、小さなころから期待を受けてきたギュンターは、気を抜くということが苦手だ。
さらされる視線は羨望と嫉妬。同性であれば嫉妬のほうが多い。自然にうまく立ち回るためのポーカーフェイスは身についていた。
ここ一年ほどは、妹・エミーリアの縁談のことでイラついている両親のため、家でもそつのない長男を演じるのが常となっていた。
別にそれが苦痛だと思っていたわけではないが、クラウスの言葉に、気が軽くなったのも事実だ。
「そうだな。名もなき男……か。悪くはないな」
庭にある時計台のベルがカランと大きく六回なった。
開催予定時刻である十八時を告げる音だ。
クラウスは仮面をしっかりと付け直し、ギュンターを仰ぎ見る。
「さあ、客人たちも集まってきただろう。そろそろ広間に行こうか」
「ああ」
先を行くクラウスの背中を眺めながら、まだ顔が青ざめたままのルッツの背中を励ますようにたたき、ギュンターは部屋を出た。