秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
しかし誘いはなかなかにしつこかった。
あきらめて皿を置こうとしていた彼女を見て、ギュンターは余計なおせっかいかと思いつつグラスを差し出した。
「レディ。お待たせしました」
「え?」
「……なんだ? 誰だ?」
振り向いた男たちは、ギュンターの着ている服を見て一瞬ギョッとする。
王子であるクラウスの服は同じように見えても生地から違う。明らかに自分たちより格上の人物が出てこれば、無礼講とはいえたじろぐのは貴族の常というものだ。
「すまないね。美しいレディと踊りたいのはわかるのだが私が先約だ。踊り終えてからならどうぞご自由に」
「……っ、では、後程」
男たちが去っていくのを、女性は茫然としたまま見つめていた。
その視界に入るように、グラスを差し出す。
「どうぞ。飲みませんか。アルコール度数は低めだと給仕がいっていましたよ」
「あ、ありがとうございます」
「いえ。私も今は先に食事をと思っていたところです。あなたもそうでしょう? 一緒にいれば声をかけられることもない。しばらくここでゆっくりなさればいい」
そういうと、ギュンターはさらにいくつかサンドイッチを取り、差し出した。
「まあ、ありがとうございます」
女性はグラスの液体を一口含むと、皿のサンドイッチに手を伸ばし、両手でつかんで食べ始めた。