秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
ギュンターはそのしぐさに目を惹かれた。
小さな口を、大きく開けて食べたかと思えば、すぐに口元をふき取り、咀嚼する姿を見せないよう口元をそっと手で隠す。
顔が見えていればついついそちらに目が行くが、仮面をしていれば所作が際立つ。そして、自分は所作が美しい女性に好印象を抱くのだと、そのとき初めて気が付いた。
「こちらもいかがですか?」
ギュンターは自分が食べておいしいと思った生ハムを彼女にも差し出す。
「まあ、ありがとうございます」
細い指でフォークを操り、そっと口元へそれを運ぶ。味がお気に召したのか、彼女の口元が綻ぶのを見て、ギュンターは自分も頬を緩めた。
この令嬢はどこの令嬢だろう。
ここに来ている人間は、身分が明らかにならない仮面舞踏会ならではの気軽さを楽しむつもりなのだろうから、この詮索は無粋だ。よほどふたりの気が合って同意しない場合は正体は明かさない。
ギュンターは声には出さず、はやる気持ちを抑えるようにグラスを傾けた。
そして、同じように杯を傾ける彼女に目をやる。
「それを飲み終えたら、……一曲踊りませんか?」
「え?」
彼女は驚いてように動きを止める。そして、何かを確認するように自分の服装を見直すと、声を落として言った。
「……ええ。私などでよろしければ」
警戒させてしまったかと思ったが、手を差し出せば彼女はおずおずとのせてくる。