秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「大丈夫かしら、私、あまり踊りが上手ではないの」
仮面の奥に見える、ブルーの瞳が不安で揺れている。
ギュンターは安心させるように口元を緩め、ゆっくりと足を動かした。
「音楽に合わせて体を揺らしているだけでいい。誰かに見せるダンスをしたいのではありません。あなたと、心地よい音楽に揺れていたいだけなのですよ」
彼女はほっと息を吐きだすと、ギュンターに体を寄せた。
彼女の腰に手を当て、リードするように手を引いてゆっくりと踊りだす。
仮面をつけていても、ギュンター=ベルンシュタインは見栄えのする男だった。まして、華やかなドレスを着た女性がお相手となれば、余計だ。
踊るふたりに目を奪われた人々が踊りを止めるので、それを避けるように踊っていると、自然に広間の中央へと導かれる。
相手の女性は、確かに踊りが上手とは言えなかった。時々、足さばきが逆になったりしているが、ギュンターはあまり気にはならなかった。それより、手でターンを促してやれば、呼応するように動く。指先から気持ちが通じていくような感覚が、ギュンターには気持がよく、いつまでも踊っていたいような衝動に駆られた。
「あっ」
しかし、そんな時間もすぐに終わる。
彼女がドレスの裾に足を引っかけ、体勢を崩したためギュンターは抱き留めた。
「あっ……すみません」
「大丈夫ですか?」
注目を浴びていたふたりの動きが止まると、一瞬周りがざわめいた。
ギュンターは素早く彼女の背中に手を回し、半分抱きかかえるように壁際まで連れてくる。
その時に、彼女のドレスの胸飾りのところに刺繍されたバルテル家の紋章を見つけ、息をのむ。