秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「お怪我は?」
「いいえ、大丈夫です」
仮面から隠れていないところすべてを赤く染めて恥じらう姿は、なんとも可愛らしい。
その仮面を外したところを見たい。
ふいに沸き上がった欲求を抑えきれず、ギュンターはつい、タブーを犯した。
「あなたは、……エリーゼ嬢ですか?」
その途端、先ほどまで体を預けてくれていた少女がはじかれたように顔を上げる。
先ほどまで緩んでいた口元は引き締まり、目を合わされることはもうなかった。
片手で仮面を押さえたまま、もう一方の手はドレスの裾を持ち上げて彼女は頭を下げる。
「ち、違いますわ。失礼します」
「あ、待っ……」
ギュンターの手を振り切って、彼女は広間を出ていく。
戸口まで追いかけたギュンターは、小さくなっていく後姿を見送る。
「これ以上追うのは、……ルール違反か」
珍しく失態を犯したなと、ギュンターは壁に寄りかかり、盛大にため息をついた。