秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
誰にでも愛想のいいギュンターではあるが、家族の中で一番苦手なのは実は母親だ。
自ら光を放ち、些細なことを気にも留めない父親と妹に比べ、母親は打算的である。それを不快に感じるのは、おそらく自分にもその傾向があるからだろう。
名門貴族、ベルンシュタイン伯爵家の長男として、ギュンターは分をわきまえている。
結婚は家のためのもの。伯爵家に一番利益を与えてくれる人を迎え入れるべきだ。
恋をしたことがないわけではない。
今よりも幼かったギュンターは若くして未亡人となった侍女に熱を上げたこともあった。
しかし、その恋は屋敷内の目配りを怠らない母親により、侍女が解雇されるという形で幕を下ろした。
彼女に申し訳なかったという思いはあれど追いかける気まではなかったということは、同情も多分に混ざっていたのだろう。
それに、ギュンターは頭の奥の冷えた部分で納得もしていた。自分は恋などできないのだと。伯爵家の長男であるということはそういうことなのだ、と。
眉目秀麗であり、賢く、器用な彼は、世の年頃の令嬢を抱える貴族にとって、ぜひとも娘を嫁に出したいと言われている男だ。山のように来ている縁談の多くが、ベルンシュタイン家にとっても価値のある令嬢だろう。
どうせ肖像画と言うのは二割増し美しく描かれるものだ。信用たるものは勘だけ。であればこの家に利益をと一番願っている父母が選ぶのが正しいと思ったのだ。