秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
そこへ、再び先ほどの執事がやってくる。
今度は騎士団の制服を着た精悍な青年も後ろについていた。
「何事だ」
ダークブルーのジャケットを着た男がすぐに気づいて不満そうに反応する。
執事がこれほど細かに報告してくるということは、このダークブルーのジャケットの紳士は、このお屋敷の主である第二王子クラウス様なのでは……とコルネリアが思い至ったと同時に、聞き覚えのある名前に耳を疑った。
「馬車を追いかけましたが、見失ってしまいました。さらわれたのは明らかにバルテル公爵家のエリーゼ様です。お立場もありますし、今夜中に見つけなければいけません。クラウス様、どうか私に捜索の許可を」
騎士は真剣な顔で訴える。
コルネリアは、やはりこの方がクラウス様、と思いながら飄々とした態度の彼を見つめる。
さらわれたなどという物騒な言葉が飛び交っているというのに、まったく緊張感はなさそうだ。
「落ち着けよ、ヴィリー。そもそもなぜさらわれた女性がエリーゼだと思うんだ? 彼女は仮面をしていたのだろう? それとも外していたのか? 外していたとして、お前はエリーゼを見知っていたのか?」
「それは……」
騎士は気まずそうな顔を背け、唇をかみしめた。
コルネリアは驚きをたたえたまま、彼を見つめる。
ヴィリーといえば、エリーゼが駆け落ちするといっていたお相手ではないか。
なのに彼がここにいて、エリーゼはさらわれたと言っている。
ということは駆け落ちを決行したわけではなく、エリーゼは本当にさらわれた?