秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
なんにせよ、ヴィリー本人がここにいるということは、エリーゼは明らかに本意ではない失踪をしているわけだ。
コルネリアはとっさに指揮権を持っているクラウスへとすがった。
「いいえ。行方が分からなくなったのはきっとエリーゼです。探してくださいませ」
クラウスは疑わし気なまなざしをコルネリアに向ける。
「仮面舞踏会の参加者に身元を尋ねるなど無粋だと承知しておりますが、あなたは誰です? なぜそう言い切れるのです?」
「それは、その……。そんなことはどうでもいいではありませんか。早くエリーゼを見つけてくださいませ」
「エリーゼを呼び捨てにできる人間はそう多くはない。あなたがどのような立場の人間か、別室でお話を聞かせていただけますかな、レディ」
「……はい」
余計な時間がとられることに、コルネリアは歯噛みした。
しかし、クラウスには一向に慌てる様子がない。口元に笑みをたたえたまま、執事に指示を出す。
「夜会は明け方まで行うのが通例だ。本日の参加者をこれ以上外に出すな。帰ろうという方には部屋を用意してお泊りいただけ、侍女頭に言えば部屋は十分も待てば用意できるはずだ」
「はっ」
執事はすぐに頭を下げ、ヴィリーを押しのけるようにして広間を出て行った。