秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「しかしな。さらわれたのなら悲鳴のひとつもあげるものではないかね。その時の状況を説明できるか? ヴィリー」
「はい。……えー、私が薔薇園の赤薔薇の生垣のあたりを巡回しておりましたら、言い合いをしているようなふたり組を見つけました。エリーゼ様は仮面を外していましたが、男のほうはつけたままです。喧嘩でもしたのか、令嬢のほうが男の手を振り払って走っていきました。男は彼女を追いかけ、追いついたと思ったら、令嬢は突然力が抜けたように男に寄りかかったのです。そのときすでに門の近くまで来ていました。何事かと近寄ってきた門番を男は蹴り上げ、女性を抱えて外へと出ていきました。そして外壁沿いの少し離れたところで待ち構えていたらしい馬車に乗り込んでいったのです。そのまま走って追いかけましたが、馬車と人の足では差が開くばかりで」
ヴィリーは最初こそ言いよどんだものの、話し出せばすらすらと状況を説明した。
「そうか。馬車の形や色は覚えているか?」
「はい。大型の箱馬車です。一般的な茶色塗りの外装でした」
「お前はその特徴をできるだけ詳細に書き、団長に渡せ、捜索隊の指揮は団長にさせる」
「はい!」
勢いよく返事をしてヴィリーが出ていったのを見て、コルネリアは「ちょっと失礼します」と言って追いかけた。
どうしても、本当のところを確認したいと思ったのだ。