秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
コルネリアが考えた通り、馬房周辺はたくさんの馬車が並んでいたが、いわゆる一般客はほとんどいなかった。御者は馬が興奮しないようできるだけ離れないようにしているし、宮の召使たちも一か所に集まって話し込んでいる。
少し離れた暗がりで、コルネリアはヴィリーと向かい合った。
「本当のことを教えてください。あなたは今日、エリーゼと駆け落ちの約束をしていたんですよね?」
コルネリアの問いかけに、ヴィリーはそっと目をそらした。
「やはり、エリーゼはそう言っていたんですね?」
疑問形で問い返されて、コルネリアは何も言えなくなる。
胸の奥が不安でざわついていた。
「ふたりは……愛し合っていたんでしょう?」
震える声で問えば、ヴィリーは目を伏せて笑う。
「それは、もちろんです。僕はエリーゼを見て、一瞬で心を奪われました。彼女もそうだと言ってくれ、夜会のたびに抜け出し、心を通わせてくれました。けれど僕の身分では公爵令嬢との恋はうまくいくはずもない。そう言ったら、彼女が言い出したのです」
「……なんと?」
「『では、わたくしを連れて逃げてくださいませ』と。……僕はふたりきりの時の甘い密言のつもりで返事をしました。だって普通に考えれば、駆け落ちにメリットは何もない。公爵家を出し抜けるとは思っていないし、まして彼女の父親にそんなことが知られたら僕と彼女は完全に終わりです。それくらい、……言わなくても彼女はわかっていると思っていた。しかし……」
「エリーゼは世間知らずのお嬢様よ。恋に溺れている今は特に、周りなど見えていないわ」