秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「そのようですね。今日、本気で逃げる気だった彼女と対面して初めて、僕はそれに気づきました。僕は落ち着くよう諭したんです。当然ですが彼女はひどく傷ついて、僕のもとを去っていったんです。僕は追いましたが、彼女を見失ってしまった」
ヴィリーは苦いものを飲み込むように、一度息を止めてから一気に息を吸い込んだ。
「……しばらくして小さな悲鳴が聞こえました。駆け付けた時には、仮面をつけた男が彼女を抱きかかえて門を出ていくところでした。もしかしたらそのとき、彼女には意識がなかったかもしれません。近くには門番が倒れていて、彼の無事を確認してから追いかけたときにはすでに外に待っていた馬車に乗り込んでいました」
では、エリーゼは全く素性のわからない男に連行されたということなのか。
「その男に心当たりはないの?」
「わかりません。エリーゼに求婚している男はそれこそ大勢いますが、彼女のつれない態度にたいていの男は諦めていたようです。それでも、キュッテル子爵や、ゼークト男爵家のご子息はしつこかったと聞いています。しかし、バルテル公爵はベルンシュタイン家のご子息に狙いを定めているらしく、先日そちらへの縁談の申し込みと同時に、きちんとお断りしたと聞いていたのですが」
子爵家や男爵家ならば伯爵家より格下だ。公爵から直々に断りの連絡があるならば、それでもすがるような真似はしないだろう。
「……それでは手掛かりにならないわね」
こうしている間にも、エリーゼは見知らぬ男に暴行を加えられているかもしれない。
想像しただけで背筋がぞっとした。
「お願いよ。ヴィリー様、エリーゼを助けて」
「もちろんです。今は団長の指揮のもと、彼女の救出にあたりたいと思っています。では失礼して……」
ヴィリーは踵を返したそのとき、彼の陰に隠れていて見えなかった人影が現れた。
コルネリアも、彼の姿を見つけて息をのむ。
そこにいたのは、驚きの表情を隠しきれずに立ち尽くすギュンター=ベルンシュタインだったのだ。