秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「……レディ」
呼べば体をびくりと震わせる。
ギュンターはできるだけ紳士的な笑みを浮かべるよう努力し、彼女に手を差し出した。
「コルネリア、と呼んでもよろしいかな。春先とはいえ外は寒い。屋敷の中に戻りませんか?」
「え、ええ」
差し出した手に、コルネリアはおずおずと指先を載せる。触れた途端にはじかれたように体を震わせたので、逃げられないようにその指先を包み込む。
「冷たくなっていますよ。さあ早く戻りましょう」
指先をなでながら、ギュンターは彼女を引きよせる。
全身を緊張させたコルネリアの顔は真っ赤だ。ダンスをしていた時は仮面をつけていたのでわからなかったが、あの時もこんな顔をしていたのだろうか。
こうしてエスコートしていると、今まで出会った女性たちとは違い、とても初心な印象だ。
「……何の話をしておられたんですか?」
「えっ」
「もしやお邪魔をしてしまったかと」
「いいえ。とんでもない。エリーゼのことが心配で、お話を伺っていたのです」
「ああ、あなたとエリーゼ様は従妹だとか」
カマをかけるつもりで話題を振ったが、コルネリアには意に介した様子がない。屈託なく話し続ける。
「ええ。小さい時から何度も遊んでいましたの。当時は母と一緒に公爵家にお邪魔することが多かったんですが、十を超えたころからはお互いだけで会うようになりました。エリーゼは素直で、同い年なんですが妹みたいなんです」