秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「落ち着けるか。エリーゼは誘拐されたんだぞ。大体、なぜお前がこのドレスを着ている。これは私がエリーゼのために作らせたものなのに」
他家の伯爵令嬢相手にいくら公爵といえども、暴挙が過ぎる。
ギュンターは慌ててふたりの間に割って入った。
「女性を怯えさせるのはいかがなものかと。バルテル公爵様」
そこで初めて、公爵はギュンターに気づいたらしく、目を丸くして咳ばらいをした。
「……ギュンター殿。貴殿も今宵の舞踏会に参加されていたのか」
「ええ。クラウス王子殿下より、お招きを受けまして。それより、エリーゼ様の件、ご心配なさるのは最もですが、ここで騒ぎ立てても始まりません。どうか落ち着いて、お話をきかせてくださいませんか?」
落ち着いたギュンターに気圧されたように、公爵は声のトーンを抑えた。
「そ、そうだな。貴殿も協力してくれるということだな。……その、どうだろう。エリーゼとの縁談の件は」
「今はそれどころではないでしょう。まずはエリーゼ様を無事に探し出すことが第一です」
「もちろんだ。それでその、……今日はエリーゼとは話されたかな」
「本日は仮面舞踏会でしたので、話したかもしれませんし話してないかもしれません。それより別室へ。公爵様はどこまで状況をご存じですか?」
ギュンターが目くばせし、クラウスが「こちらです。叔父様」と公爵を促す。
目の前で起こっている出来事についていけず戸惑っているコルネリアに手を差し出した。
「コルネリアもこちらへ」
「は、はい」
コルネリアが安堵したようにギュンターの手を取ると、バルテル公爵は苦いものを見るような顔でにらみつけた。