秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~


「……公爵様も落ち着いてください」


ギュンターのほうは平素の落ち着いた様子を崩さない。
すごい方だわ、とコルネリアは思う。

コルネリアは自分が所詮一代で成り上がったハリボテのような伯爵の娘である自覚がある。

歴史ある王家筋の公爵に嫌われるのはわからないでもないけれど、面と向かってこうも悪意をぶつけられれば平静な顔を続けるのは難しい。

実際、クラウスも、娘が誘拐されたと知って慌ててきたはずなのに、ギュンターに娘を売り込むような発言ばかりする公爵に対して、嫌そうな顔を隠そうとさえしていない。

それなのに、ギュンターは落ちついて、公爵をなだめ先に促そうとしている。

……エリーゼとの縁談をお受けするからかしら。

エリーゼとの縁談がうまくいけば、ギュンターにとって公爵は義理の父だ。
だから関係を悪くしないように心掛けているのかもしれない。

コルネリアの胸がチクリと痛む。
傷んだことが図々しいとさえ思うのに、胸の痛みはひどくなる一方だ。

ふんだんにひだのついたドレスをぎゅっと握る。
こんな豪華なドレスを着れるような人だけがギュンターの横に立つ資格があるのだ。
ぽっと出の伯爵令嬢なんかには手の届かない人なんだわ。

そう思って、コルネリアは静かにうつむいた。


< 57 / 147 >

この作品をシェア

pagetop