秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~

 
 中央領にある王宮は、そう簡単に入れるものではない。しかし、離宮に当たる東の宮に関しては、警護が甘い。この宮の主人である第二王子クラウス=ファーレンハイトが変わり者だからだ。

ギュンターがルッツとともにエントランスに向かうと、侍従が最敬礼をして待っていた。


「殿下のお呼びと伺いましたが」


社交辞令の笑みで告げると、年嵩の侍従は「ようこそお越しくださいました。ギュンター様。クラウス様がお待ちでございます」と、彼とルッツを階段のほうへと案内した。

どことなく、人も多く気ぜわしい空気が漂っていた。庭園も手入れされたばかりのようで芝生も刈りこまれていたし、自慢の薔薇園への扉も開かれていた。室内でも侍女たちがあわただしく動いている。

毎日クレムラート領から取り寄せるという花がいたるところに飾られ、クレーデル領の有名な陶芸家が作ったツボが多く並べられている。高名な画家の絵が、惜しげもなく廊下に並べて飾られていた。

何度もこの宮を訪れているギュンターは、ルッツがきょろきょろあたりを見回すのを苦笑しながら制した。


「行儀が悪いよ、ルッツ」

「そうはおっしゃられてもギュンター様。以前来た時とまた絵が一新されておりますよ。すごいですね」

「絵画道楽だからな。お抱えの絵師に工房までプレゼントするような男だ」

「おっと、いうねぇ、ギュンター」


よく通るテノールの声に後ろを振り向くと、今から向かおうと思っていた部屋にいるはずの男が、そこに立っていた。
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