秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~


クラウスに連れてこられた部屋は、先ほどの応接間に比べれば小さいが、一般客用の客間よりも一回り大きかった。
絵画が飾られ、ベッドがあり、テーブルやソファがあるところは一緒だが、薔薇園に面した部屋であるからか腰から上の高さに大きめの出窓がある。


「しばらくここにいるといい。わかっていますね、今あなたは疑われています。逃げ出そうなんて考えないことだ」

「……はい」

「嘘をついているならば今のうちにお話しなさい。あなたにかかる嫌疑はそれだけでも薄れる」


クラウスの緑の目がコルネリアを映し出す。

コルネリアは一瞬逡巡した。
駆け落ちのことをばらしてしまって、すべて明らかにした状態で捜索したほうが見つかるのではないだろうか。

けれど、ほほを染め、彼の妻になると笑ったエリーゼを思い出せば、彼女たちの関係に不利になることは言いたくないという思いもあった。


「……私は宝石を盗もうなどとは思っていません」

「そうか。ならば一つ聞くがね。君もエリーゼもギュンターの縁談相手であることは間違いないだろう? そこについて、君はどう思っていたんだい?」

「結婚は家同士のものです。私は自分が政略結婚の駒であるのは了承しています。ただ、父がどう頑張ったところで、ベルンシュタイン伯爵のお立場を考えれば、エリーゼが選ばれるのは当然だと思っていますわ」


建前としてはそうだ。
しかし、この短期間のうちにギュンターに惹かれている自分に、コルネリアは気づいてしまった。

彼がエリーゼを選ぶと思うと、心が痛い。
エリーゼがそれを望んでいるならばそれでも応援しようとも思えるが、彼女自身はほかの男に恋をしているのだ。


「もちろん、エリーゼがそれを望むなら、です」


本音が口をついてしまう。これは失言だわと言ってから思った。
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