秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
迷いは晴れなかった。
公爵はギュンターとエリーゼの縁談を望んでいるのだ。エリーゼが駆け落ちしたなどとばらされたくはないだろう。
そこでいきなりコルネリアの視界が覆われた。
顔の上半分をギュンターの手が覆っているのだ。
「どうやらあなたは他人に気を使いすぎるらしい。そういう時は仮面をつければいいんですよ。あなたは今、コルネリアではない。ただの一人の娘です。誰への影響も考えず、ただ知っていることを教えてください」
コルネリアの視界に入るものは、彼の指の節だけだ。
ギュンターの言葉に、コルネリアは抱え込んでいた責任を手放した。
エリーゼに対して申し訳ない気持ちは片隅に残っていたが、もう抱えきれないほどの不安に耐え切れなくなっていたのだ。
「エリーゼは、……恋をしていました。公爵様から縁談を強要されて、思い余って駆け落ちを計画していたのです」
「今日?」
「ええ。仮面舞踏会ならばいなくなっても見つかりにくい。まして服装を替えていれば余計だと言って」
「ああそれで、服を交換ですか」
納得がいったようなギュンターのつぶやきに、心の重しが少し軽くなる。
「袋に入った宝石は、もしもの時に換金できるようにと私が持っていくように言いました。馬車で落としたとは気づかなかったですけど。もしかしたらあの時かしら。バルテル公爵領を抜けるときに、工事で道が狭くなっていて大きく揺れたときがあったから」