秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~

「殿下、いつの間に部屋を抜け出されたのですか」


侍従が不満そうに片眉を上げる。


「お前が出て行った後に決まっているだろう。ようやくギュンターが来たというのだから早く会いたくてな」


そこにいたのは、口元の笑みをたたえた、大柄な男だった。
金髪に緑がかった瞳、Vラインのシュミーズの上から襟の立った金糸の刺しゅうされた上着を羽織り、飾り帯をつけている。派手な格好に負けない美丈夫なこの伊達男は、ドルテア国王・ジークウァルト=ファーレンハイトの次男で、今年二十歳になるクラウス=ファーレンハイト王子殿下だ。


「やあ、ご機嫌麗しゅう、王子殿下」

「この屋敷でその呼び名を使うなといっただろう。まあ入れ」

「かしこまりました。クラウス様」

「それもやめろ。お前に言われると敬われているというよりはけなされている気しかしない」


向かったのは応接間だ。壁一面を覆うような大型の額、縁が金細工で彩られた椅子が向かい合わせに二脚、正面にはふっくらとしたクッションのソファ。その間にあるテーブルも一枚板の厚みのあるものだ。

ギュンターは、クラウスが腰かけるのを待ってから、自分も席に着いた。
ルッツは後ろに控えるように立つ。

しばらくすると髪を一つに結い上げた清楚な印象の侍女が、ティーセットをもってやってきて、テーブルに砂糖菓子と紅茶を乗せると頭を下げて部屋を出ていく。


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