秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「ふむ。馬車を見たと言ったね。大きさは? 君はどのあたりで追いつけなくなったんだい?」
「大型です。それこそ、今日ご来客の方たちが乗ってこられるようなサイズのものですね。この目の前の通りを追いかけ、セントラル通りに出るころにはもう見失いそうなくらい小さくなりました」
「君は馬ではなく走って追いかけたんだね?」
「はい」
馬車は案外と速度が出ない。その大きさでその速さなら二頭立てだろう。と思えばやはり、財力のある人間にしか持てない馬車だと言える。
「もう一つ聞こう。君はエリーゼ嬢との関係を公にする気はあるかな」
「それは……しかし、ばれたら」
「保身のために諦めるような恋なら最初からしないほうがマシだよ」
「しかしエリーゼに貧乏暮らしなどできるわけが……」
「エリーゼ嬢は現実が見えていない。それは俺も同意するけれどね。でも恋に人生を賭けようという心根は素晴らしいものだ。君にそこまでの情熱があるのかどうか聞いているんだよ。なければ彼女は他の男と結婚した方がいいだろう。彼女の家柄なら、本人に多少傷がついても結婚相手など腐るほど現れる」
ヴィリーは黙ったままこぶしを握り締めている。
ギュンターは目を細めて煮え切らない男を見つめた。
「彼女が他の男に抱かれ、瞳を陰らせたまま生きても構わないというのならば、もう行っていいよ。君に期待することは何もない。女性を幸せにする気概さえない男など何の役にも立たないからね」