秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
汚いものを見るような目で手であっちへ行けと示すギュンターに、ヴィリーはようやく口答えした。
「僕はっ、彼女の幸せを想えばこそっ……」
「ほう、自分から身を引いたとでもいうのかい? それで今、エリーゼ嬢が幸せだとでも?」
「……っ」
「君は騎士だ。爵位もなく、出世は己の働き次第。相手が公爵令嬢では尻込みするのも分かるがね、一度でも手を伸ばしたのなら、離すのは死ぬ時だ。そう思わないか?」
ギュンターの問いかけに、ヴィリーは体を震わせた。
実際に会うまではヴィリーの本気を疑っていたが、こうして話してみれば気概に欠けているだけで真面目な男のようだ。
「逆に君は俺たちとは違って、爵位などなくても自分の手でのし上がっていける。望みのために努力さえすればね」
奮い立たせるように言うと、ウィリーは顔を上げて頷いた。
「はい。確かに、その通りです。自分の手でエリーゼを救いだします」
「その意気だ。エリーゼ嬢救出の指揮権も、君の身柄も引き受けてある。今から俺の指示で動いてもらう」
「はい!」
ようやく迷いが晴れたようにきびきびとした敬礼を見せたヴィリーを満足気にみやり、ギュンターは腕を組んだ。
「色々話を聞いて、一つの仮説を立てた。後はこれが正しいかどうかを検証しなければならない。君が信用できると思う騎士団の若者を数人選んでくれないか」
「ベルンシュタイン様……もしかして目星がついているのですか」
「ギュンターと呼んでもらおうかな。ベルンシュタインの名は重たいのでね」
「……そんな家柄におられて、そう思うものですか」
「大きすぎる家名はプレッシャー以外の何物でもないよ。エリーゼ嬢もそうなんじゃないのかい? 彼女が君を選んだ意味をちゃんと考えるといい」
ヴィリーは、さっと顔を赤くしたものの、決意のこもった目でギュンターを見つめた。