秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~

恋を語る男女は、独りで歩くギュンターになど目もくれない。ギュンターは辺りを見回しながら、そこから見える二階の一室に目をやる。

案の定、不安で眠りにもつけないのか、コルネリア嬢が窓辺を行ったり来たりしていた。


「……一本だけ、拝借させていただこうか」


ギュンターは、月の光を受けて美しく輝く白薔薇を、一つ選んで摘んだ。
棘を丁寧に取り除き、彼女からよく見えそうな位置で高く上に手を伸ばす。

窓が開いた。

コルネリアがこちらを見ている。
思いつめた一途なまなざしは、一貫して変わらない。

不安にゆがむ顔でさえ可愛らしいと思うのだ。
彼女がエリーゼに関わる懸念を払しょくし、心から笑ったならばどれほど美しいのだろう。

今は仮面をつけているが、自分のことが分かるだろうか。

試すような気分で、ギュンターは踊りに誘う時のように、ゆったりとお辞儀をし、彼女の方へ白薔薇を差し出した。

最も今の立ち位置は一階と二階であるから届くはずはないのだが、彼女は戸惑ったように口元に手を当てたのち、それを受け取り、胸に抱きしめる仕草をする。

綺麗な動作だ、と思う。
新興の伯爵家とはいえ、礼儀作法はきちんとしつけられたのだろう。

生粋の貴族にはない実直さがギュンターには好ましく映る。

それからしばらく見つめ合っていたが、ギュンターは胸に薔薇を差して、また歩き始めた。

視界から彼女の部屋が見えなくなるころ、バタンと窓の閉まる音がした。


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