秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
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胸の前で合わせた手が震えている。
コルネリアは、ドキドキする胸を押さえたまま、小さくなっていく仮面の男を見つめ続けた。

先程の花を差し出す動作には、どういう意味があったのだろう。

仮面をしていたけれど、あれはギュンター様だろう、という確信があった。
服装も似ていたし、なによりあの優雅な動作と落ち着きが作り出す存在感は、彼以外にはそうそう放てないだろうと思う。

白薔薇を向けられたときは、まるで求婚されたようなときめきを味わい、思わず手を伸ばしてしまった。


「……馬鹿ね。図々しいわ」


窓を閉めて、コルネリアは息をつく。

夢想に浸るのは幸せだ。しかし現実には、彼には公爵家をはじめとする良家からの縁談が殺到しているはずだ。
普通で言えば伯爵家は良い家柄だが、彼に関して言うならば、新興の伯爵家などモノの役にも立つまい。

目尻を押さえ、ため息をつく。

ここで大人しくしているようにと言われたが、やはりエリーゼの無事が気になってじっとしていられない。
暇をつぶすためのものもないため、はやる心を抑えるには部屋の中を歩き回ることしかできなかった。

やがてノックの音が響いた。


「はい」

「失礼します」


見張りに扉を押さえてもらって入ってきたのは、トレーを持ち、両手がふさがった状態の侍女だ。

銀とトレーにはお茶のセットと、白薔薇が乗っている。

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