秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
悲しい決意を胸に顔を上げると、門のほうが騒がしい。
窓辺に寄って、外を見たコルネリアの目に飛び込んできたのは、走りくる馬車だった。
正面の通りを行きすぎようとしているが、二頭の馬が前に回り、行く手を塞いでいる。
「……何が起こっているの?」
後ろからも馬が数頭やってきて、門前は物々しい雰囲気だ。
騒ぎを聞きつけてか、玄関の方からギュンターとクラウスも出てくる。
「あっ、ギュンター様」
呟きが聞こえるはずもあるまいに、ギュンターは一度こちらをちらりと見た。
目が合って、身を乗り出そうとするコルネリアに、手振りで奥に下がるように指示する。
一緒にいるクラウスは、警備の兵たちに言いつけ、まだ薔薇園を散策している参加者たちを屋敷の中へと追いやっていた。
もしかして、事態は急速に動いたのではないかしら。
馬車はヴィリーが言った特徴とも合致している。とすれば、あの中にエリーゼがいるかもしれない。
馬車の御者をしていた男は周りを見渡し、囲まれているのに気づくと馬車を捨てた。
走り去ろうとする彼を一頭の馬に乗った騎士が塞ぐ。
男はその馬に横から体当たりした。興奮する馬が前足を跳ね上げる。馬上の騎士はバランスを崩しそうになり、慌てて馬を制御する。
その間に、御者の男は懐から短剣をだし、馬の足を狙った。
同時に、馬車の扉が開く。中には意識がないのか、クタリと体を男に預けた公爵令嬢エリーゼがいた。首元には男によって短剣がかざされている。
「女に傷をつけられたくなければ、そこをどけっ」
御者の男はそれに気づき、ニヤニヤ笑いながら馬車の方へ戻ってきた。