秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「エリーゼ!」
ヴィリーの声に呼応するように、二、三度瞬きをしたエリーゼは、自分との駆け落ちを断った男が今抱きしめている現実に気づき、目を丸くする。
「ま、まあ。何があったの。ヴィリー! どうして怪我をしているの? それに私はどうしてここに? 何があったんだったのかしら、全然思い出せない」
「男たちに攫われたんだ。その、……変なことはされていないかい?」
「攫われた……ああ、覚えているわ。布で口をふさがれて……でもその後の記憶はないの。私は一体……」
うろたえるエリーゼに、ヴィリーは安心させるように彼女の頬を撫でる。
「大丈夫。何があっても僕は君のことを愛してる」
「……まあ」
突然の愛の告白に、エリーゼが口元を押させて驚き、ヴィリーは自ら口に出したものの、恥ずかしさで顔を俯かせていた。それを見て、クラウスが近づいてくる。
「エリーゼ、彼は君を助けてくれたんだよ。攫われた君を救うのに必死だった」
それを聞いて、エリーゼは美しいエメラルドの瞳を潤ませた。ヴィリーの頬から一筋流れた血を汚れるのもかまわずに自分の手で拭う。
「それでこんな怪我を。しっかりして、ヴィリー。死んではいけません」
「死ぬほどの怪我でもないだろう。背中は打ったようだが。それよりエリーゼ、君が乗っているからヴィリーは身動きができないんじゃないかな」
「……え? あら、本当だわ」
我に返ったエリーゼは自分を抱きとめていてくれたヴィリーの上から避けると彼の体を抱きしめた。
「私をかばってくださったのね。……何がどうしてこうなっているのか、私さっぱり分からないのですけど。でも嬉しいわ」
涙目で喜ぶエリーゼに、ヴィリーは微笑みかけた。
「僕を許してくれるかい? エリーゼ。一度はあきらめようとした僕を」
「私を助けてくださったんでしょう? 愛の言葉は受け取ります。私もあなたを愛していますわ」
エリーゼが涙目でそう言い、クラウスは意外なものを見たという表情で見入っている。
ギュンターもそれをほほえましく眺めながら、馬車を捕獲してきた騎士団員たちが戻って来るのを迎え入れた。