秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~

跡継ぎであるフェリクス=ファーレンハイトはクラウスよりも五歳年上の二十五歳。体が弱いが頭脳明晰であり、臣下の信用も厚い。早々に奥方を娶ったが、いまだ子には恵まれていない。

体の弱さはすべての美点を隠して余りある。冬を越すまでに毎年二度は寝込むフェリクスを、誰もが長くはないのではないかと疑っている。そうなれば、次なる王位継承者は弟であるクラウスなのだ。

爵位を持ち、政治に携わって経験を積んでほしいというのは親心だろう。


「クラウスは、もっと周りのことを考えるべきだろう。フェリクス様に何かあったらと思えば、お前に期待するのは当然の流れだ」

「兄上は死んだりなどしないよ」

「もちろんそれが一番だが、病だけはどう転ぶか分からないだろう。いまだお子も授かっていない。フェリクス様の次の王位継承者はお前だ。とっとと結婚しろよ」


あきれたように言うと、クラウスはにやりと笑って反撃する。


「ギュンター、妹がいたよな。美人で内気と噂の。俺の所へ嫁に出さないか。十分玉の輿だと思うぞ」

「……そんなことしたらお前とは縁を切る」

「あはは。その顔。お前が表情を変えるのは、妹に関するときばかりだな。このシスコンめ」

「うるさい。間違ってもエミーリアを嫁にほしいとか言うなよ。お前のわがままは洒落にならない。こっちに選択権はないんだからな」


腐っても王子である。
よほどの事情がない限り、意思は通る。


「わかったわかった。からかうと楽しいな、ギュンターは」


ギュンターはあきれて睨む。どうしてこの国の王子ともあろうものがこうちゃらんぽらんなのか。
跡継ぎであるフェリクス様とこの無駄に健康そうな体を交換できればいいのに。

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