秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
「そういや、バルテル公はどこに行ったんだろうな。あんなにエリーゼの心配をしていたというのに」
「まあお父様が来ていますの?」
「すごい剣幕でね。コルネリア嬢が可哀想だったよ」
「どういうこと? 説明してくださいます?」
従兄妹という間柄のせいか、クラウスとエリーゼは屈託なく話している。
縁談の話が来ているとはいえ、ギュンターはエリーゼとは対面したこともないので黙ってついていった。
「ところでこちらの方はどなた? どこかで拝見したことがある気がするのですけど」
と、玄関の辺りまで来てエリーゼはようやく問いかける。
「これは失礼。ギュンター=ベルンシュタインと申します」
儀礼的に返事をすると、エリーゼは警戒したような表情になった。
「まあっ、あなたがギュンター様? あまり肖像画と似ていないわ。伯爵家が頼んだ画家はあまり上手じゃありませんわね。わたくし、あなたと結婚する気はありませんわよ」
「そう構えないで。あなたの気持ちは分かっているつもりです。俺は縁談を無理に進めるつもりはありませんよ」
「そう」
エリーゼがほっと胸をなでおろし、皆とともにエントランスに入ったとき、奥からバルテル公が駆けつけてきた。
「エリーゼ!」
「まあお父様。なぜこんなところにいらっしゃるの」
「お前が攫われたと聞いて慌てて来たに決まっているじゃないか。お前を救いだしてくださったのは、このギュンター様だぞ。お礼は言ったのか」
「バルテル公、ちょっと待ってください。彼女を救いだした立役者は私ではありませんよ。王国騎士団のヴィリーと言う若者です」
「なっ」
「エリーゼ嬢、あなたを救いだしたものには、あなたと結婚する権利がある。公爵様は私にそう約束してくださった。君とヴィリーは結婚できる」
「まあっ」
エリーゼが嬉しそうに頬を染め、逆に公爵は顔を真っ赤にして怒り出した。