空に星が輝く限り、私はきみを忘れない~Dearest~
「……っ!」


眠れない彼女のために処方されていた睡眠薬だ。


駆け寄ってすぐに吐き出させる。


幸いなことに――本当に幸いなことに、彼女はすぐに意識を取り戻した。


「……藤井、救急車を!」


「え、あ……」


「……早く!」


「あ、う、うん!」


藤井が119をしている間、僕は彼女を抱き起こした。


「……どうして……」


思わず、そんな言葉が漏れてしまう。


「……どうして、こんなことを……」


そこまで彼女にとって昴は大きな存在だったのか。


僕たちでは彼女の支えになれなかったのか。


そんな悔恨の念ばかりが湧き上がってくる。


「……えない……」


彼女が小さく言った。


「……え……?」


「もう……昴に会えない……幽霊になって化けて出てきてくれるって言ったのに、いつまで経っても来てくれないんだよ……」


「……っ」


「約束したのに……絶対に会いにきてくれるって言ったのに……。みんな、約束を守ってくれない……お祖母ちゃんもそうだった……。だったら……もう待たない……私も、昴のところに行く……」


そこまでだった。



パン……!



気付けば僕は、彼女の頬を叩いていた。


「……涼、く……ん……?」


彼女が目を瞬かせる。


「……仁科は、馬鹿だ……」


「え……?」


「……死んであいつのところに行くなんて……昴が、そんなこと望んでると本当に思ってる……!」


「でも、だって……」


「……だって、じゃない。誓って言ってもいい。僕は昴と子どものからいっしょにいた。だれよりもあいつの気持ちを分かってる。その上で……今の仁科の姿を見たら、あいつは間違いなく怒る。「何やってんだこの馬鹿!」って、本気で怒るに決まってる」


それは本当のことだ。


この場に昴がいたら、絶対に同じことを言っていたはずだ。それは断言できた。


「う……」


彼女が嗚咽を漏らす。


「そ、そんな……そんなこと言われたら……私、どうしたらいいの……? 分かんないよ……」


「……生きるんだ。昴の分も。それが、昴の望んでいることだよ」


それがずるい言葉だということは分かっていた。


昴の名前を使って、彼女を縛る。


そう言ってしまえば、彼女は聞かざるを得ない。


でもそれしかもう、彼女を引き止める手段はないように思えた。





「う……うわぁああああああん……っ……」





まるで堰を切ったように彼女が声を上げた。


そういえば、昴が亡くなってから、一度も彼女が泣いているところを見たことがなかった。


涙は、自然な感情の発露なのだという。


だとしたら……彼女は、ようやく昴の死を認めることができたのかもしれない。


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