チョコレートコスモス(男編)
男編

『さっき会議終えて 今電車の中』

宛名のないメッセージを打つようになったのは、いつからだろう。

毎日、当たり前のように彼女からの連絡を知らせてくれたこのスマホは、今はもう鳴ることはない。
彼女はチョコレートになった。死んだのだ。

死んだ人はチョコレートになる。
親族や身内、その他諸々の関係者たちはそのチョコレートを食べる。
食べることで、その人がいつまでも自分たちの中で生き続けるのだという。
そしてその香りを忘れないようにと、たくさんのチョコレートコスモスを供える。

最後に食べたチョコレートの味は、彼女の味がした。
とても温かくて優しい…上手くは言えないけれど、彼女だという味。
そして口にした瞬間、彼女の笑顔が脳裏いっぱいに広がった気がした。




あれから一年が経とうとしている。
会えないことくらい頭では分かっているのに
人混みの中、彼女の面影を捜してしまう自分がいて、時々、おかしいんじゃないかと思う。
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